この記事は、連載「言わない技術」の第 10 回です。各回はファイルやスクリプトを一つ置けば完結します。連載の全体像と各回の一覧は序論にあります。
今回は、AI のほうから飛んでくる問いの話です。「A と B、どちらにしますか」「〜という理解で合っていますか」。私は、これに答えなくなりました。
この回は復習回でもあります。ここまでの 9 回で置いたものを、入力の側で並べ直します。この連載から読み始めた方には、ここが入口になります。 前の 9 回を読んでいなくても、下の一覧で何が置いてあるかは伝わります。
前作「AIの意見を聞かない技術」の第 7 回で、AI のズレを訂正するのは仕組みの仕事だと書きました。今回は訂正ではなく、確認の側です。
まず一つだけ、数えてみてください。直近のセッションで、AI から「A と B、どちらにしますか」「〜という理解で合っていますか」と聞かれた回数です。そのうち、答えなければ作業が止まったものは何回でしょう。
CC BY 4.0
答えると、答えが前提になります
Anthropic のモデル別のプロンプト指針は、確認の頻度についてこう書いています——日常的な判断はモデル側でやり、読み方の違いが仕事の中身を変えるときだけ確認せよ。
これは「聞くな」ではありません。線引きが引いてあるだけです。そして、線引きの手前で答えてしまうと何が起きるかは、第 7 回で測りました。答えは前提として渡ります。「A で」と言えば、B は探されません。「はい、合っています」と言えば、そこは確かめ直されません。
理解したことは一文にできます。
問いに答えることは、答えを前提として渡すこと。だから答える代わりに、答えなくて済む場所を先に置いておく。
置くものはありません。置いてあるのは、ここまでの 9 つです
この回で新しく作るものはありません。問いが減ったのは、9 回ぶんの仕組みが問いの前に立っているからです。並べるとこうなります。
| 回 | 置いたもの | 立っている場所(無ければ聞かれる問い) |
|---|---|---|
| 1 | 実行の依頼に機構の裏打ちを要求する自動テスト | 「検証しておきますか?」 |
| 2 | 用途カタログの requires(渡すものだけ縛る) | 「どの順で進めますか?」 |
| 3 | 不具合の詳細を画面に集めさせるフォーム | 「再現手順を教えてください」 |
| 4 | 書かれた計画書そのもの(前例の蓄積) | 「まず計画を出しますか?」 |
| 5 | 強調の件数のラチェット | 「これは重要な決まりですか?」 |
| 6 | 出力の形を書き切った手引き(唯一の例外) | 「どの形式で出しますか?」 |
| 7 | 疑問形で固定した締めの一文 | 「この解釈でよいですか?」 |
| 8 | 置き換え先のない禁止の検出 | 「これは駄目ですか?」 |
| 9 | 名指しの先に目印を要求する構造 | 「このファイルはこうですよね?」 |
右の列が、答えずに済んでいる問いです。どれも「私が答える」ではなく「機械が答える」か「聞く必要がなくなる」に置き換わっています。
前 2 作で見つけたパターンは 5 つでした。入力の側に翻訳すると、そのまま当たります。
| パターン(前 2 作) | 入力の側での意味 |
|---|---|
| ルールは読まれたときだけ効く。足すほど薄まる | 問いへの答えも同じ。その 1 回のセッションでしか効かない |
| AI は止められると探す | 答えると、探すのをやめる(第 7 回で測った) |
| 読んだかは測れない。在るかだけを見る | 「わかりましたか」に「はい」と返っても、何も測っていない |
| 方針は、差し込む瞬間で効き方が決まる | 問いへの答えはその瞬間にしか差し込まれない。次のセッションには残らない |
| 自己申告は完了に寄る。数は落ちない | 「これで良いですか」への「はい」も、完了のほうに寄る |
前作が「誰も見ていない」と書いた項目は、どうなっていたか
前作の第 8 回に、こう書きました——「機械検証: なし」の項目は、誰も見ていないぶん、黙って実装から離れていきます、と。
私は、そのまま宙に浮いたと思っていました。第 8 回で数えたら、違いました。代わりにどうするかを書けなかった 5 件は、あとから自動テストへ移っていました。 離れていく代わりに、機械のほうへ渡っていた。⚠️ 前作が数えたのは却下の一覧 17 件で、こちらは行動ルール 43 件です。一覧が違います。 同じことが別の場所でも起きていた、というだけで、あちらの内訳は動いていません。私が計画してそうしたのではなく、書けないたびに 1 件ずつ移していたら、そうなっていました。
⚠️ 切り分け: 前作の 9 つ目とは、扱うものが違います
前作「AIの意見を聞かない技術」は、AI の提案を二度検討しないための仕組みを 8 つ置いた連載で、その最終回が 9 つ目として「選択肢を選ばない技術」を扱いました。あちらは AI が選択肢を並べてきたとき——判断の側です。今回は AI が問いを投げてきたとき——入力の側で、別のものです。
そして、あちらはこう言い切っています。
8 つ置いた結果、いつのまにか出来ていました。置き方を説明できないので、技術として渡すこともできません。渡せるのは、8 つのほうだけです。
⚠️ この回も同じです。 渡し方を説明しません。上の一覧で並べたのは、この連載で置いた 8 つのほうだけです(前作の 8 つとは別の 8 つで、数が同じなのは偶然です)。
CC BY 4.0 はここまで
答えなくなったもの
「A でいきましょう」「はい、合っています」「そこは大丈夫です」です。問いが減ったのではありません——聞かれる回数は前と大きく変わっていません。変わったのは、問いの多くが機械の側で閉じるようになったことと、閉じないものだけが私のところに来るようになったことです。
CC BY 4.0
注意: 答えるべき問いは、あります
一つ、答えるべき問いはあります。 冒頭の指針どおり、読み方の違いが仕事の中身を変えるときは答えます。「この機能は作らない」「この語は使わない」は、機械には決められません。この回は「全部黙れ」ではなく、線を引く場所の話です。
二つ、8 つの一覧は私の手元の形です。 同じ 8 つを置く必要はありません。見てほしいのは中身ではなく、「聞かれたとき、どこかの仕組みが引き受けられるか」を先に見る順番のほうです。
検証手順: 聞かれたら、引き受け先を探す
前提
- 置くものはありません
- あなたが既に置いた仕組みの一覧があること(この回の表のようなもの。手元の分を紙かメモに書き出しておきます)
- 次に AI から確認の問いが来る場面が 1 回あること
所要時間: 5 分(その場で 1 回)
手順
- AI から確認の問いが来たら、あなたが、答える前に手を止めます(「A と B、どちらにしますか」「〜という理解で合っていますか」)
- あなたが、その問いを 2 つに仕分けます。判定の基準は 1 つです——読み方の違いが、仕事の中身を変えるか。変えるもの(「この機能は作らない」「この語は使わない」)は、あなたが答える問いです。変えないもの(進め方、形式、どちらでも成立するもの)は、仕組みが引き受けるはずの問いです
- 仕組みが引き受けるはずの問いなら、答えずに、その仕組みを見に行きます。 ⚠️ 見に行くのが本体です。 答えてしまうと、次の「見るところ」のどちらだったのかが永久に分かりません
見るところ(合否ではなく、見に行った結果で分かれます)
- 仕組みはあるが、止まっている —— 動いていない仕組みが見つかりました。直す場所が分かった、ということです
- その問いを引き受ける仕組みが無い —— あなたが答えます。⚠️ 一度目は答えていい。 そのうえで記録します——同じ問いが二度目に来たら、そのときに引き受ける仕組みを 1 つ置きます
後始末
- 要りません
⚠️ 二度目に置く、が本体です。前 2 作と同じで、先回りして置いた仕組みは馴染みません。
CC BY 4.0 はここまで
次回は「AI にレビューをさせない技術」。私は、AI にレビューをさせていません。それでも、抜けは私より先に見つかっています。
連載「言わない技術」
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