ここまでの番外編は、記録を整える側(A)と、連載を本にする側(B)の話でした。ここからは、初稿を仕上げる側の話です。校正と校閲。ただし、私は校正の専門家ではありません。編集者もいません。本編で学んだことを応用して、手探りで実践します。
前提を 1 つ置きます。この章の時点で、本文はまだ 1 章も校正していません。やったのは「どう校正するか」を決めることだけです。それなのに、この章には直したものが 14 件あります。直したのは、校正の方法を書いた文のほうです。
先に結論を 3 つ置きます。
- 校正の方法を決める文も、本文と同じ地雷を踏みます。私が使った方法 13 個に本編を当てたら、踏んでいたのが 10 個。うち 9 個は、本編か番外編に書いてある地雷でした
- そのうち 2 個は、同じ日に自分で書いた地雷です。書いてあっても止まらない、を自分の書いたもので踏みました
- だから校正は、本文からではなく、校正の方法に本編を当てるところから始まりました。私は本文を 1 行も直す前に、方法の側で 11 件(踏んだ 10 個 + 引き継ぎの 1 行)直しています
起きたこと —— 方針を書いて、見せた日
🧩 これを意識して読み進めてみましょう。
症状「AI に進め方の方針を立てさせたら、その方針のほうが、自分たちで禁じたやり方をなぞっていた」 ⭐ 本文では、ハイライトした部分がその場面です。
- No.10 要約 —— 数値の行に決まった書き出しを付け、一字一句コピーされたかを hook で見ます。
- No.29 推測 —— 参照先と実装の両方に同じ識別子を書かせ、その識別子が実在するかを自動テストで見ます。
- No.17 書いてあるだけの禁止 —— 禁止事項ごとに、対応する自動テストの有無を明示します。
その日の依頼は、これです。
依頼者
「校正」に校閲を含めていいです。 現在の素人がバイブコーディングで作った本を、仕上げるためのあらゆる技術です。 インターネットで方法を検討しても構いません。 細かい検証は不要で、解決できる方法が必要です。 ただし、仕組みを作るのに伴う検証は必要な場合が多いです。読めばわかる問題は検証不要なことは本編で説明済みです。 今回は計画のみ行って方針案を提示してください。 本編同様コンセプトが重要なので、方針案提示まえに調整したいです 置き場所は番外編CでOKです。
範囲も、どこまで検証するかも、案という出し方も、この 8 行が決めています。私はこれを受けて、校正をどう進めるかの方針を書きました。仕上げの工程を 4 つに分ける表、からの指摘を種類で分けた表、コンセプトの核となる一文、何を数えるかの案。合わせて 2 つの節です。
から返ってきたのは、方針への賛否ではありませんでした。
依頼者
方法論について、本書で確認した”地雷”を踏んでいる可能性があります。例えば”要約は信用できない”などです。慎重に網羅的に確認し、方針採用して大丈夫なものを提示してください。却下する案も校正する技術の重要資料になる可能性があります
どうでしょうか
この「例えば」は、最初に届いた文面にはありません。記録には、が同じ問いを送り、3 秒後に私の応答を止め、最初に送ってから 25 秒後に「例えば”要約は信用できない”などです。」を足して送り直したことが残っています。当たりの見本を出したのは、私ではありません。
その「例えば」の 1 つが当たっていました。そして、当たっていたのはそれだけではありませんでした。
当て方 —— 物差しを先に決めた
自分の文を自分で読み直すと、読みたい形に読めます。当てる相手を先に固定しました。
- 本編 65 本の主題文(各回が何を言った回かの 1 行。スクリプトで抜いたもの)
- 逆引きチートシート 53 行(症状から回を引く表。設定ファイルにある)
- 番外編 A 5 本(記録を整える側で、同じ月に自分で書いたもの)
当てる対象も先に決めました。「校正の方法を書いた 2 つの節で、私が使った方法」を 13 個、順に並べたものです。良かった悪かったではなく、踏んだかどうかを記録で確かめます —— 会話の記録、git の履歴、参照したページの本文。確かめられないものは「確かめられない」と書きます。
10 個
13 個のうち、踏んだのが 10、踏んでいないのが 2、保留が 1 でした。詳しく 3 つ書きます。
1. 「20 往復を 6 種類に分けました」—— 要約が原文に勝った
広告資料をと往復した記録を、6 つの種類に分けて表にしました。合わせて 20 件です。数えたのは私の記憶で、記録ではありません。(No.10)
記録からスクリプトで写したら、こうなりました。
[observed] 写した発話 26 件(発話 3〜28)
「20 往復」は自己申告でした。そして表を作ったときに落ちていたものがあります。発話の順です。同じ種類で 3 度往復したものがあり、順が無いと、なぜその形に落ち着いたのかが再現できません。
1 作目の第 9 回と第 10 回が、これを書いています。引き継ぎは書いた側の要約で、都合の悪いものから落ちる。数字は要約させず、コマンドが出力した行をそのまま読ませて出させる。私は AI の出力にはその線を引いていて、自分が書いた表には引いていませんでした。
直し方は、番外編 A-5 と同じでした。要約を消すのではなく、原文を隣に置きます。記録から発話をスクリプトで写した一次データを 1 本置き、表には「案」と書き添えました。正は原文のほうです。
2. 「一般の手引きは「1 度に 1 種類ずつ」を勧める」—— 開いていないページから、1 文が生えた
仕上げの工程を 4 つに分ける表を作るとき、一般的な校正の手引きを調べました。方針にはこう書きました。「一般の手引きは「1 度に 1 種類ずつ」(構成 → 文 → 校正の順)を勧める」。
記録を見ました。
- 検索は 3 回。出典として並べた 6 本は、6 本とも検索結果に実在します(作り話ではありません)
- 開いたページは 0 本でした。読んだのは検索結果の要約だけです
今回 2 本を開きました。4 工程の分類は、確かに両方のページにあります。「1 度に 1 種類ずつ」は、どちらのページにもありませんでした。片方は英語で "Not every book requires all four types"(すべての本に 4 種類すべてが要るわけではない)と書き、もう片方は「繰り返し行うことにより」と書いています。開いていないページの中身として、私が 1 文を書いていました。(No.29)
第 1 部 第 2 回「宣言を信じない技術」が、AI の「確認しました」を信じるなと書いています。出典を 6 本貼ると、それを読む人は読んだ証拠だと受け取ります。
直し方は 2 つです。開いた出典と、検索結果に出ただけの出典を、分けて書く。そして「1 度に 1 種類ずつ」は取り消す。
3. 「実測から言えること(3 つとも既にある)」—— 導出に、実測と書き添えた
コンセプトの核となる一文を立てました。「AI の文は、根拠より強く出て、読者より書き手に寄る」。手前に「実測から言えること(3 つとも既にある)」と書き添えました。
3 つとも、母数は 1 セッション・1 モデル世代です。そこから引き出した一般化に、実測という言葉が付いていました。
これは番外編 A-4 が書いたことです。導出は、の言葉と同じ強さで記録に載る。A-4 を書いたのは、この 7 時間前です。同じ日の朝でした。
残りの 6 つ
| 使った方法 | 当たった地雷 |
|---|---|
| 「の指摘 20 往復に字句の指摘は 0」と言い切った | 数字は母数とセット / 自己申告ではなく記録で数える |
| 通読の回数と出所を、別の引き継ぎから孫引きした | 出所の省略。⚠️ 節番号が違っていた(通読の節は 4 つあり、指した節は通読の節ではなかった) |
| 論文の書き方との対応表を足した | ⚠️ 誰も頼んでいない。良かれと思って足したもの(番外編 A-1) |
| 「何を数えるか」の案を出した | 実験しない技術(第 2 部 最終回)。前の作で使った実測のやり方を、そのまま持ち込んだ |
| 「AI に校正させて比べる」実測の案を出した | 同上 |
| 最終応答に、スクリプトが出した数字の行を貼らずに終えようとした | 数字は AI に報告させない(1 作目 第 10 回)。⭐ 引き戻したのは hook です(2 回) |
表の 4 行目と 5 行目(何を数えるかの案と、AI に校正させる案)は、依頼と正面から逆を向いています ——「細かい検証は不要で、解決できる方法が必要です。」
この表に入れかけて、外したものが 1 つあります。「案の中から推す 1 つを選んだ」です。第 2 部 第 5 回(選び直させない)と 2 作目 最終回(選択肢を選ばない)に触れて見えますが、案を出すのはの指示でした ——「今回は計画のみ行って方針案を提示してください。」です。踏んだ側に数えかけて、数え直しました。
形だけ変えています —— 推しは根拠の数で並べ、「もう一度考えて」と言われても、新しい根拠が無ければ同じものを据え置くと先に書きます。第 2 部 第 5 回が、聞き直すと 12 件中 7 件が視点ごと入れ替わると書いた回です。
同じ日に書いた地雷を、同じ日に踏んだ
10 個のうち 9 個は本編か番外編 A に書いてあります。そのうち 2 個は、同じ日に自分で書いたものでした。
| 踏んだもの | どこに書いてあったか | 書いた日 |
|---|---|---|
| 1 世代の実測を一般化した | ⭐ 同じ日の引き継ぎに、私が「1 つの世代の実測を、一般化して書いてしまう」と書いた節 | 同じ日 |
| スクリプトの数字の行を貼らずに終えようとした | ⭐ 同じ日に自分で説明した仕組み(貼るまで引き戻す) | 同じ日 |
第 2 部 第 8 回「成果物で判断しない技術」が、これを書いています。読める場所にあり、読んだうえで 32 回破った、と。私はその回を材料にした広告文を、この日の午前に書いています。
10 個のうち、hook が引き戻したのは 1 個だけです —— スクリプトが出した数字の行を貼らずに終えようとして、2 回とも引き戻された件です。残りの 9 個については、に問われるまで、誰も何も言いませんでした。止まった 1 個だけが、書かれた禁止ではなく、仕組みになっていました(No.17)
⭐⭐⭐ 書いてあることは、踏まない理由になりません。自分で書いたことも、同じです。
母数を 1 件直したら、分類が 1 件動いた
「残りの 6 つ」の 1 行目を当てたとき、私は記録で数え直して、言い切りをこう直しました。「誤字脱字の指摘 0・体裁 2・残り 18 は根拠と読者の側」。直したほうの母数は、25 発話です。
記録から写し直したら、母数は 26 発話でした(別の数え方で 1 件少なく数えていました)。母数が動いたので、分類も数え直しました。
[observed] 字句の語: 0 件 (0 件)
[observed] 体裁の語: 6 件 発話 13:余白 / 発話 13:右側 / 発話 22:改行 / 発話 23:表示 / 発話 28:表示 / 発話 28:大きく
- 誤字脱字の指摘は 0 件。これは母数を直しても変わりませんでした
- 体裁は 2 件ではなく 3 件(発話 13・22・28)。増えた 1 件は、母数から外していた発話 28 です
- 語で拾うと 4 発話に当たりますが、発話 23 の「表示」は「表示したバージョン」という言い方で、体裁の指摘ではありません。偽陽性は、消さずに数えたまま書きます
「誤字 0」だけを覚えていると、その数は正しいまま古くなります。母数が動けば、そこから出した分類も動く。言い切りには母数を貼る、というのは、貼った数字が動いたときに気づくためでもありました。
この章を書き、点検するあいだに、さらに 4 件出た
10 個は、当て終わった時点の数です。そのあと、踏んだものが 4 件増えました。
11 件目 —— 引き継ぎの中で、作が 1 つずれていた
この章に「32 回破った」を引くとき、引き継ぎにはこう書いてありました。「追わない 第 8 回「32 回破った」」。本文を開いて確かめました。
その回にはありませんでした。実際は動かさない技術 第 8 回「成果物で判断しない技術」です。私が作を 1 つ間違えた 1 行が、引き継ぎに残っていました。
12・13 件目 —— この章の中で、作番号を 2 つ間違えた
書き上げたあと、引いた回を記事の一覧と設定ファイルで確かめました。引いた回が 2 か所ずれていました。
| 私が書いた | 実際 |
|---|---|
| 「2 作目の第 2 回「宣言を信じない技術」」 | ⚠️ 第 1 部 第 2 回(確かめない技術は 4 作目 = この本の第 1 部) |
| 「選択肢を選ばない(3 作目 最終回)」 | ⚠️ 2 作目 最終回(聞かない技術) |
どちらも、元の記録は連載の名前で書いてありました。「聞かない 最終回」「確かめない 第 2 回」。作番号に置き換えたのは私です。名前から番号への変換を、確かめずに書きました。
14 件目 —— 踏んでいないものを、踏んだ側に数えかけた
「残りの 6 つ」の表に「案の中から推す 1 つを選んだ」を入れていました。判定は「踏んでいない」です(案を出すのはの指示)。10 個の内訳を、10 個と合わない形で並べていました。
⭐⭐⭐ 同じ形が、1 つの章の中で 3 回起きています。引き継ぎの作名、この章の作番号 2 つ。⚠️ どれも「読めば分かる」ものではありません。1 行だけ見ればどれも筋が通っていて、開かないかぎり正しく見えます。
「手探りで実践する」も、私が決めた言葉ではありませんでした
その日の終わりに、はもう 1 つ送ってきました。
依頼者
ここまで不足点はありませんか?確認して不足点がなければ次のセッションに引き継いでください 本編で学んだことを応用して、手探りで校正校閲を実践するコンセプトの校正する技術において、必要なやり取りがあれば記事追加を検討してください。コンセプトの調整も含めて考えてみてください。
この章のいちばん上に置いた「本編で学んだことを応用して、手探りで実践します」は、この 2 行目の写しです。
同じ日、私はコンセプトの核となる一文を 3 つ並べ、推す 1 つを名指ししていました(「実測から言えること(3 つとも既にある)」の節に引いた、あの一文です)。が採ったのは、そのどれでもありません。が 1 行で書いたほうです。
これは 11〜14 件目のような間違いではありません。ただ、私の 3 案は、13 個を当てて 10 個の地雷を数えたその日に、核の一文だけまるごと外れていました。
検証手順: 校正の方法に、本編を当てる
前提
- 自分の本に、方法を当てられる形の主題があること(各回が何を言った回かの 1 行)
- 方法を書いた文が残っていること(消してから振り返ることはできません)
手順
- 本文ではなく、方法を書いた文を対象にする。校正の方針・分類・核の一文・数える案
- 自分が使った方法を、順に並べて数える。「良い方法/悪い方法」で分けない。使った順に並べる
- 当てる物差しを先に固定する。本編の主題文、逆引きチートシート、直近に自分で書いたもの
- 踏んだかどうかは記録で確かめる。会話の記録、git、参照したページの本文。「たぶん踏んでいない」は「確かめられない」と書く
- 却下したものを消さない。却下した案は、次に同じ形を書いたときの物差しになります
- 一次データを原文で置き直す。要約の表は残してよい。ただし「案」と書き添え、正を原文の側にする
- 母数が動いたら、そこから出した分類も数え直す
合格条件
- 踏んだ数を数字で出せること(13 個中 10 個、のように)。「いくつか踏んでいた」で終わらせない
- 踏んだものごとに、記録の出所が 1 つずつ付いていること
- 却下した案が消えずに残っていること
つまずいたとき
- 1 個も見つからない: 対象が本文になっています。方法を書いた文に当て直します
- 「これは踏んでいない」が続く: 記録を開いていない可能性があります。開いたページ数を数えてください
- 直しながら読んでいる: 直すのは当て終わってからです。当てながら直すと、直した後の文に当ててしまいます
この番外編が言えないこと
正直に置いておきます。
- 母数は 1 人・1 冊・数日です。「校正の方法は本文と同じ地雷を踏む」は、私の 13 個から言っているだけです
- 13 個は、私が「これは方法だ」と切り出した 13 個です。切り出し方が変われば数は変わります。10/13 という割合には意味がありません
- 仕組みで覆えたのは一部です。原文を写すスクリプトは置きましたが、「開いていないページから 1 文が生える」を止める仕組みはありません。開いたかどうかは記録に残るので、数えることはできます
- 世代で変わるかは分かりません。この章の 10 個は、いまの世代の私が数日で踏んだものです
- この章が当てたのは校正の方法を書いた文で、本文そのものには 1 行も当てていません
- なぜ 10 個とも踏んだのかは、この章に書いていません。記録に残っているのは、私が書いた方法と、あとで当て直した結果だけです
整理して残ったもの
- 校正は、本文より先に、校正の方法に本編を当てるところから始まる
- 書いてあることは、踏まない理由にならない。同じ日に自分で書いたものでも同じ
- 要約の表は残してよい。ただし正は原文の側に置く
- 出典を貼ることは、開いた証拠ではない。開いたものと、検索結果に出ただけのものを分ける
- 母数が動いたら、そこから出した分類も動く。言い切りに母数を貼るのは、動いたときに気づくため
- 却下した案を消さない。却下の理由は、次に同じ形を書いたときの物差しになる
- 自分が立てたつもりの方針が、渡された指示の写しのこともある。私が原文を隣に置くまで、どちらなのか分からない