AI に出していた指示の大半を、私は言わずに済ませています。それでも、丸投げ(渡すものを用意せずに「うまくやって」と言うこと)とは別物になっています。私が、AI に渡すものを先に用意してから、AI に打つ言葉を減らしてきたからです。連載「言わない技術」は、その状態を仕組み一つずつで作ってきた記録で、この記事が最終回です。各回の仕組みは序論の一覧から辿れます。

白状することが一つあります。

私は、何も指示しないわけではありません

私は 3 作 37 本かけて、「読まない」「聞かない」「言わない」と書いてきました。その私の指示ファイルに、仕組みが受け持つことと同じ内容の依頼が残っています。

証拠は第 1 回に書きました。私が指示ファイル(CLAUDE.md)に「コミット前に必ず実行」と書き足したのは、2 回だけです。どちらも、そのチェックのスクリプトを足したのと同じコミットでした。そのスクリプトは、あとで pre-commit hook が実行するようになりました。pre-commit hook は、コミットのときに自動で走るスクリプトです。hook に入ったのは、デザインのチェックがその日のうち、翻訳ファイルのチェックが 5 か月あとです。

依頼の行は、hook を置いたあとも、すべて指示ファイルに残っています。

この連載で私が何度も書いた文は、これです。

〜と思っていました。違いました。

仕組みがあるなら、指示ファイルで同じことを頼んでいる節ごと消すことができると思っていました(第 1 回)。手元に残っている、仕事の進め方を書いた手順は 0 本だと思っていました(第 6 回)。実際には 9 本にしか無い一文を探す課題を、「この 10 本には 1 つずつ入っています」と数を決めて渡せば、AI は 10 本目の一文を作って埋めると思っていました(第 7 回)。体験設計の原則を並べた文書で、原則が実装されている場所として指定したファイルと、AIがそのファイルに書き込んだ目印は、1 対 1 で対応していると思っていました(第 9 回)。自動テストにしないと決めた禁止事項は、誰も見ていないまま実装から離れていくと思っていました。代わりを書いていない行動ルール 6 件のうち 5 件は、あとから自動テストへ移してありました(第 10 回)。置いた 26 本の自動テストが何を見ていないかは、数えるまで知りませんでした(第 11 回)。

私が打った言葉を数えました

序論では、あなたに、自分が打った言葉を数えてもらいました。私も数えました。この連載の最後の 8 本を書くあいだに、私が言葉を打ったのは 11 回でした。そのうち 8 回で打ったのは、1 作目の最終回に書いた 2 つの定型文でした。「次の作業を進めてください」と、「ここまで不足点はないですか?確認して不足点がなければ次のセッションに引き継いでください」です。

ただし、私は、「ないですか」を「ありませんか」と、「次のセッションに引き継いでください」を「次の作業を進めてください」と打っていました。自分で書いた定型文を、私はうろ覚えで打っていたのです。

2 作目の序論で、私は、却下を覚えないAIについてこう書きました。

あなたにとっては「二度目」ですが、AIにとっては毎回が一度目です。

私も、AIと同じでした。自分で決めた定型文を、私は覚えていませんでした。

1 作目の最終回に、私はこう書きました。

この間に私が読むのは、最後の「不足なし」か「引き継ぎ完了」だけです。

そして、この 2 文の間、私はAIが作業を終えるのを待っているだけです。

私は、「読むのは…だけです」のほうを 1 作目の 14 本で、「待っているだけです」のほうをこの連載の 13 本で説明しました。

やめたこと

読まない技術AIの意見を聞かない技術言わない技術
テスト結果を読まない提案を検討しない検証を指示しない
メモリを読まない禁止を書かない具体的な指示を出さない
単体テストを読まない禁止ルールを作らない不具合詳細を書かない
スキルを使わない自動テストを書かない計画を書けと言わない
ルールを読まないAI の確認依頼を断る念を押さない
共有メモリを整理しないAI の話を聞かないAI を問い詰めない
修正履歴を読まないルールを整理しないAI にダメ出ししない
引き継ぎを読まない選択肢を選ばないAI に考えさせない
AI に要約しろと言わない一度確かめたら、サブエージェントの入力を確かめない質問に答えない
口を挟まないAI にレビューをさせない
作業結果を読まない一度書いたら、サブエージェントに細かく指示しない
一度読んだら、サブエージェントのログを読まない

やめたことは、32 個あります。読むのも、聞くのも、言うのも、私はやめました。

表の各列の最後の項目は、1 作目 第 5 回「サブエージェントの出力だけは読め」、2 作目 第 4 回「サブエージェントの入力だけは、確かめろ」、3 作目 第 6 回「サブエージェントの出力だけは、細かく指示しろ」の 3 本の項目です。37 本のうち、題を命令形で書いたのは、この 3 本に限られます。3 本のどれでも、私は、題の動作(読む、確かめる、細かく指示する)をしてから、仕組みをどこに置けばよいかを知りました。いまは、読むのも、確かめるのも、細かく指示するのも、やめています。だから、この 3 つも、やめたことの表に入っています。


やめたことを表に並べてみて、私は気づきました。仕組みは、もう全部置き終えてあったのです。

置き終えたことを、私は忘れていただけでした。

私はこれから、何もしなくてよくなります。


3 作で置いた仕組みを使って私が作ったものは、typingtube で動いています。

連載「言わない技術」