作業の合間に残す短い記録(memory)は、普通は定期的に要約します。増えたらまとめ、古いものを畳み、要点だけを残す。⚠️ 私はそれを徹底して避けました。前章で置いた新着メモリの形は、要約しないための形です。

この章は、なぜ避けたかの記録です。新しい実測はありません。読めば分かることを、測りはしません。

先に結論を 3 つ置きます。

  • ⭐⭐⭐ 要約は、書いた時点の判断で削ります。読むのは別の時点の別の人です。だから要約は、書いた本人にも信用できません
  • ⭐⭐ 整理から要約を抜くと、残るのは位置の操作だけです。動かす、残す、捨てる。書き直す、はありません
  • ⚠️ 要約しなかった効果は、測りません。読めば分かるものを測らない、と第 3 部の第 7 回に書きました

⚠️ この番外編にも次回予告がありません。理由は 1 つ目の章と同じです。

1 作目に、書いてありました

ここまでの番外編 4 本には、「要約」という語が 10 回出てきます。導き出した要約に印が付く。手前の要約が原文に勝つ。要約をくぐると条件が別の対象に掛かる。⚠️ 4 本とも同じものを指していて、4 本とも、それを 1 作目に結んでいませんでした。

引き継ぎの文章は書いた側の要約で、都合の悪いものから落ちる。数は要約で落ちない。(1 作目 第 9 回「引き継ぎを読まない技術」) AI に要約させると、結論が残って母数が落ちる。だから数字は要約させず、出た行をそのままコピーさせる。(1 作目 第 10 回「AI に要約しろと言わない技術」)

1 作目の時点で、AI の出力に対しては言い切っていました。要約は落とす。何を落とすかは、書いた側の都合で決まる。数だけは落とさない。

⚠️⚠️ 言っていなかったのは、自分の記録に対してです。引き継ぎファイルも、memory も、私が書いた要約です。1 作目が AI の出力に見つけた性質は、そのまま私の記録にもありました。

番外編 4 本は、全部これでした

私が要約したもの落ちたもの
A-1記録の索引を「先頭 2KB」で受け取っていた進行中の作業(届いたのは項目の 23%)
A-2依頼者の 4 要素の発言を「まず 1 本にまとめる」へ「シリーズ」という原文。印は要約のほうに付いた
A-3直近の実測 9 行を「正は README の §46b」の節番号だけへ5 行は痕跡なし。指した先は 2,649 行
A-4「ルール調整の前に検証」を「記事を書く前に検証」へ条件の掛かる対象。誰も言っていない「3 本」が足された
[observed] 起動時に読み込まれる索引: 86 行 / 55,412 バイト / 項目 59 件
[observed] 実際に届くのは先頭 2,048 バイト = 17 行 / 項目 14 件(= 23%)
[observed] 「確定」38 件のうち、前後 25 行に依頼側の引用が無いもの 14 件
[observed] 消した 9 行のうち痕跡が残らなかった 5 行 / 2,649 行の文書を節番号で指した行 4

⭐⭐ 落ちたものは毎回違いますが、落ち方は 1 つです。都合の悪いもの、というより、書いた時点で要らないと思ったものが落ちます。⚠️ 要るかどうかは、読む時点で決まるのに。

⭐⭐⭐ 要約は、書いた時点の判断で削る。読むのは別の時点の別の人。 ⚠️ だから要約は、書いた本人にも信用できない。

memory を要約しない、という選択

冒頭に書いた「徹底して避けました」の中身は、この違いです。

普通の memory新着メモリ
セッションが要点を書く依頼者の発話は機械が一字一句写す。私が書けるのは導出の枠だけ
状態を言葉で書く状態は git の値(branch / 上流との差 / コミット)
古い行を書き換える追記だけ。最新は末尾
増えたら要約する増えたら退避する。月別のファイルへ、1 字も変えずに
整理 = まとめ直す整理 = 昇格か、捨てるか。昇格は行をそのまま動かす。書き換えない

「整理」から要約を抜くと、残るのは位置の操作だけです。動かす、残す、捨てる。⚠️ 書き直す、はありません。

これは 3 つ目の章でやったことと同じです。2,000 行を超えた引き継ぎファイルを分けたとき、文は 1 字も変えず、節番号も変えず、置き場だけを変えました。要約していれば 1 手で済んだところを、参照を数えて付け替え、検査で確かめました。⭐ 要約しないほうが手間です。⚠️ その手間が、落ちるものをゼロにします。

効いたかは、測りません

「要約しなかった memory は、要約した memory より良かったか」。⚠️ 測りません。

読むだけで分かることを、わざわざ測る必要はありません。(第 3 部 第 7 回「モデルを選ばない技術」)

要約が効くことの検証はしません。第 7 回で、見たら分かることは検証しなくていい、と書きました。⭐⭐ あなたはこの本で、たくさんの信用できない要約を見てきています。各回のタイトルがそうです。要約で何が落ちるかは、上の表に 4 回ぶん書いてあります。要約しなければ、落ちるものはありません。⚠️ 読めば分かることを、測りはしません。

⚠️ ただし、要約しないと増えます。それは前章に書いたとおり、機械が退避します。増えることは問題ではなく、増えた分をまとめ直そうとすることが問題です。

タイトルは、いちばん短い要約です

ここまで読んだ人は、もう気づいていると思います。

1 つ目の章の冒頭に、こう書きました。「足したものは仕組みで、減らしたのは自分の手数」。タイトルは 65 本のうち 54 本が「〜ない技術」で終わり、本文は全部、何かを置く話です。⭐ タイトルは本文の要約で、要約だから信用できません。

最終回が、それを数えて白状しています。

[observed] 振り回した装置: 予告 60 本 / 白状 10 箇所 / 「タイトルは嘘」3 本

⚠️⚠️ 6 作のタイトルは、最初から「要約は信用するな」を示していました。「読まない技術」は、読まないのではなく、要約させない技術です。第 1 回で「会話には要約だけ返す」と書いた同じ連載が、第 10 回で「数字は要約させない」に着地しています。1 作目の中でさえ、要約は途中で信用を失っています。

⭐⭐⭐ この本を最後まで読んだ人だけが、タイトルを正しく読めます。そして、それを読んだあとで、要約を信用しなくなります。⚠️ そこまで来て初めて、memory を要約しない、という選択が、奇妙に見えなくなります。

この章も、要約です

⚠️⚠️ 信用しないでください。4 本の番外編を 1 つの表にまとめました。落ちたものがあります。原文は 4 本にあり、その原文にも、落ちたものがあります。記録は残っています。

数だけは、そのまま写しました。

検証手順: 自分の記録で、同じことを確かめる

前提

  • 作業の合間に残す短い記録があり、変更履歴が残っていること

手順

  1. 記録の変更履歴から、「書き換え」の変更を数える。消えた行と足された行が同じ箇所に対になっているもの
  2. 書き換えの前後を並べ、落ちた語を数える。数字が落ちていれば、それは母数です
  3. 追記だけにする。書き換えを、動かす・残す・捨てるの 3 つに置き換える
  4. 昇格させる行は、1 字も変えずに動かす
  5. ⚠️ 効いたかは測らない。手順 2 の表を読み返せば分かります

合格条件

  • 手順 3 以降の変更履歴に、書き換えの変更が無いこと
  • 手順 4 で動かした行が、動かす前の行と一致すること

つまずいたとき

  • 増えて読めない: 読むのは末尾だけです。⭐ 末尾を届ける側を機械にする(前章)
  • ⚠️ まとめ直したくなる: それが要約です。⭐ 代わりに、捨てられる行を数える(状態は新しい行が出た時点で捨てられます)

この番外編が言えないこと

⚠️ 正直に置いておきます。

  • ⚠️⚠️ 要約しないのは記録の話です。会話の文脈そのものは、道具の側で自動的に圧縮されます。そこには手が届きません(3 つ目の章の「長いコンテキストの省略」)
  • ⚠️ 「タイトルは要約」の話は、6 作 65 本(前巻 37 本+この本 28 本)についてです。他の本のタイトルについては何も言っていません
  • ⚠️⚠️ 導出は溜まります。要約しないので畳めません。何を本体へ昇格させるかは人が読みます。ここは仕組みにしていません

整理して残ったもの

  • ⭐⭐⭐ 要約は、書いた時点の判断で削る。読むのは別の時点。だから書いた本人にも信用できない
  • ⭐⭐ 整理から要約を抜く。残るのは、動かす・残す・捨てる
  • 効いたかは測らない。読めば分かる
  • ⚠️⚠️ タイトルは最短の要約。この本のタイトルは、最後まで読んだ人にしか正しく読めない
  • ⚠️ この章も要約。原文は 4 本にある

⭐⭐ 1 作目の第 10 回は「AI に要約しろと言わない」でした。番外編の 5 本目は「自分にも要約させない」で終わります。⚠️ 6 作かけて AI に置いた線を、最後に自分の記録に引きました。