この記事は、連載「読まない技術」の第 9 回です。うまくいかない症状と、その対処を一つずつ並べています。各回はファイルやスクリプトを一つ置けば完結します。その仕組みがなぜ要るのかは、置いたあとに解説を読めば分かります。連載の全体像と各回の一覧は序論にあります。

今回は、AIが書く引き継ぎ文と完了報告の話です。引き継ぎ文は書いたAIによる要約で、その要約からは、完了と言うのに都合の悪いものが落ちます。そして、報告は止まったことしか教えないという問題があります。止まったのは、AIの処理です。

typingtube(YouTube の音楽動画でタイピング練習ができる、個人運営の Web サービス)の開発で、セッション(AIとの、始まりから終わりまで一続きのやり取り)の終わりにAIが書く完了報告や引き継ぎ文を、私は読んでいません。読んでいた頃、私は、報告から確かに分かるのは、AIがその時点で処理を止めたことだけだと気づきました。要約とは、何を残して何を落とすかの判断です。その判断が行われるのは、書いたAIの、作業を終えたばかりで完了に寄ったコンテキスト(AIの作業記憶)の中です。第 5 回では、AIが同じエラーで十数回リトライした作業が、報告では「完了しました」に要約されていました。AIがテストを 3 割しか走らせていなくても、「テストは通っています」という報告は本当のことです。私が報告をいくら丁寧に読んでも、分かるのは、要約に残ったものだけです。

引き継ぎ文の場合は、要約から落ちたものを欠いたまま、次のセッションの作業が始まります。次のセッションで作業するAIは、前のセッションのAIとは別の作業者です。新しいセッションは、前のセッションの会話の履歴を持たずに始まります。引き継ぎ文から落ちたものは、このAIの手元にはありません。

AIから「完了しました」という報告が届きました。あなたなら、次のどちらにしますか。

  • 報告を読んで、AIの完了状況を確認し、次の作業をAIに指示する
  • 報告を読まずに、症状がないかを探し、問題がなくてもAIに不足点を確認する

答えは、報告を読まずに確かめるほうです。報告は、作業を終えたAIが書いた要約で、要約からは、完了と言うのに都合の悪いものが落ちます。第 5 回でも、AIは、同じエラーで十数回リトライしたことを、報告に書いていませんでした。あなたが報告を読んで完了状況を確認しても、確認できるのは要約に残ったものだけです。その報告をもとに次の作業を指示すると、落ちたものを欠いたまま、次の作業が始まります。報告から落ちたものは、あなたが報告の外で確かめるしかありません。

理解したことは一文にできます。

引き継ぎ文は書いたAIの要約で、完了と言うのに都合の悪いものが落ちる。報告は止まったことしか教えない。

CC BY 4.0

なぜ、報告は止まったことしか教えないのか

報告は、作業が終わった時点のコンテキストを材料に、AIがその場で書く説明です。第 5 回で見たとおり、AIは仕事が終わったように見えたところで止まります。同じページは、AIが走らせて確かめる手段が無ければ、「終わったように見える」が唯一の手がかりになる、とも書いています。報告が書かれるのは、AIが止まったその時点です。

Smyth ほかは 2026 年に、AIのコーディングエージェントが、やっていない作業を最終の応答でどれだけ報告するかを測りました。判定に使ったのは、エージェント自身の作業記録と最終の応答の食い違いだけで、意図は推し量っていません。ファイルのレビューを頼むと、エージェントが頼まれたファイルを全部は読まなかった実行が 67.9% あり、そのうち 80.4% では、最終の応答が、全部読んだと書くか、読み残したことに触れていませんでした。全部読んだと書いて読み残していたエージェントは、ファイルに仕込んであった欠陥を、全部読んだエージェントの約 1.8 倍の率で見落としていました。

だから、報告はAIの自己申告で、報告が出てきたことから読み取れるのは、AIがその時点で処理を止めたということだけです。報告から何かが落ちたかどうかは、報告の中をいくら探しても出てきません。Claude Code のドキュメントも、成功を主張させる代わりに、証拠を見せさせよと書いています。

仕組み: 読む代わりに、覚えている症状だけを見る

読むのをやめた代わりに私が見ているのは、この連載が 1 回に 1 つずつ並べてきた症状に当たるものが、目に入るかどうかだけです。症状には、私が同じ失敗への対処を指示ファイル(毎セッション読み込まれるルールの置き場)に書いたのにAIがまた同じ失敗をしている(第 8 回)、並列で走るセッションが共有するメモリ(AIが知見を書き溜めるメモ)が整理されないまま増え続けている(第 7 回)、テストは通っているのにそのテストが何を確かめているのか分からない(第 3 回)などがあります。どれも、私が一度は自分で経験したので、覚えています。

症状に当たるものが目に入らなくても、私はAIに、第 7 回で書いた 2 文目「ここまで不足点はないですか?確認して不足点がなければ次のセッションに引き継いでください」を打ちます。

CC BY 4.0 はここまで

読まなくなったもの

引き継ぎ文と完了報告です。私がどれだけ読んでも、文面に出てくるのは、要約に残ったものだけだからです。

CC BY 4.0

注意: 報告にしか書かれていないことは、見落とします

私は報告を読まないと決めたので、報告にしか書かれていないことは、見落とすことになります。私は、その分をあきらめています。

検証手順: 報告と実行件数が食い違うところを見る

前提

テストの実行件数が、作業の終わりに毎回出るようにしておきます。前回の実行件数は、あなたが手元に控えておきます。

所要時間: 10 分

手順

  1. あなたが、テストファイルを 1 つ、テストの実行で読み込まれない状態にします(別の場所へ移すか、中身を丸ごとコメントにします)
  2. あなたが、AIに「テストを走らせて、通るか見て」と頼みます
  3. AIが報告を書いたら、あなたが、報告の文と実行件数の行を並べます

見るところ

見るのは 3 つです。報告の文が、通ったことを告げているかどうか。実行件数が、前回より減っているかどうか。報告の中に、実行件数が減ったことが書かれていたかどうかです。

後始末

あなたが、手順 1 で動かしたテストを戻します。

この手順で見えるのは、報告と実行件数が食い違うことがある、というところまでです。実行件数が前回と合っていても、実行件数の行から分かるのは、その行が数えた範囲のことだけです。


CC BY 4.0 はここまで

次回は「AI に要約しろと言わない技術」。AI に「まとめて」と言うのをやめました。 それには深い理由があります。

連載「読まない技術」