この記事は、連載「読まない技術」の第 11 回です。うまくいかない症状と、その対処を一つずつ並べています。各回はファイルやスクリプトを一つ置けば完結します。その仕組みがなぜ要るのかは、置いたあとに解説を読めば分かります。連載の全体像と各回の一覧は序論にあります。

今回は、AI が作業している途中に、人間が一言を挟んだときの話です。人間の指示は、AI の中で何よりも優先されます —— だから作業の途中に口を挟むと、進行中の優先順位ごと壊れます。何が壊れて、元の作業がそのあとどうなるかを扱います。

まず一つだけ、探してみてください。

直近のセッションで、AI の作業の途中に口を挟んだ箇所です。「そこ、命名が変」「ついでにこれも直して」。

その直後、指摘への対応が主役になり、数ターン後には「元の作業はどこまで進んでいたんだっけ」になっていませんでしたか。

起きているのは、優先順位の組み替えです。ルールは染み付いた習慣に負け(第 1 回)、読ませた方針は目の前のタスクに負けます(第 7 回)。その列の最後に、いま挟んだ一言が並びます。進行中だった計画と、積んであった TODO が、たいてい負けます。あなたの一言が正しい指摘であるほど、AI は誠実に全力でそちらへ向かい——作業は、正しく壊れていきます。

しかも人間の割り込みには、弱点が二つあります。一つは、人間が気づくのは何周も後であること。もう一つは、一言が会話に残り続けること。会話に挟んだ指摘は履歴に残り、第 2 回で見た負担を会話の中でも背負い続けます。人の一言は切られも省かれもせず、その会話が終わるまで毎回いっしょに読み直されます。

理解したことは一文にできます。

人間の指示は、AI の中で何よりも優先される。作業の途中に挟むと、進行中の優先順位ごと壊れる。だから指摘は人間が言うのではなく、仕組みが作業の直後に返す。

CC BY 4.0

なぜ、途中で挟んだ一言に、進行中の作業が負けるのか

その一言が強いのは、いつでも一番あとに届くからです。

第 6 回のとおり、指示ファイルと、会話に直接打つ一言は、同じユーザーメッセージとして届きます。届き方は同じで、違うのは位置だけです。その位置の効き方は、第 3 回で見たとおりでした。長い入力の先頭と末尾に置いた情報は取り出せて、その間に置いたものは精度が落ちます。途中で挟んだ一言は、末尾にあります。進行中だった計画と、積んであった TODO が、その間にあります。

そして、いったん末尾に入った一言は、そこに残ります。会話が上限に近づいたとき先に消えるのは、第 10 回で見たとおり、古いツールの出力のほうです。

会話に載せられる量は決まっているので、一言が残り続けるぶん、古いものが押し出されます。進行中だった計画と、積んであった TODO が、一言より前にあります。

仕組み: 新しく置くものはありません

素のコマンドを止める案内(第 1 回)、未設置を告げるエラー(第 4 回)、起動を止めるカタログ(第 5 回)、保存直後の差し込み(第 7 回)、リトライの瞬間の方針(第 8 回)——この連載で置いてきた hook は全部、人間が口を挟みたくなる場面の代役です。

そして、人間より上手に挟みます。届く位置は人の一言と同じで、作業の直後です——第 8 回の差し込む瞬間です。違うのは中身で、仕組みが返すのは今やった手そのものへのエラーです。何のことかは、説明されなくても AI に分かる。AI は今やったことと地続きに受け取り、自分の優先順位を崩さずにその場で直して、先へ進みます。AI の邪魔をしないのです。

だから、気づいたことは会話に挟まず、メモに積んでおきます。私の場合、typingtube(YouTube の音楽動画でタイピング練習ができる Web サービス)を開発していて画面の崩れや命名の違和感に気づいても、AI が動いている間はメモに書くだけです。区切りで読み返して、自動テストや hook へ(第 6 回)、方針ファイルへ(第 8 回)。仕組みに変換した指摘は、次からは問題の直後に、壊さない形で毎回届きます。

メモに積んだぶんが効くのは次からで、いま動いている作業には間に合いません。

CC BY 4.0 はここまで

言わなくなったもの

作業中の指摘です。「そこ違う」「ついでにこれも」を、AI が動いている間に言わなくなりました。言いたいことが消えたのではありません。言う役目が、人間から仕組みへ移っただけです。いま、作業の始めに私が打つのは「次の作業を進めてください」の一言で、その先は仕組みに任せています。


次回は応用編の最後、「作業結果を読まない技術」。AI が仕上げた作業を、私は確認しません。だけど、抜けはちゃんと見つかります。

連載「読まない技術」