REISAI×捜し物屋まやま「Anemone」 (難易度Lv5)

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集英社文庫  ×1   x0

\\『捜し物屋まやま2』刊行記念//
注目のボカロP・REISAIさんとコラボ!
『捜し物屋まやま』(木原音瀬著、集英社文庫)のイメージソングが誕生しました。

「Anemone」
■Lyrics・Vocal:宛然サカナ(Twitter:https://twitter.com/NiceGanmen
■Music・Arrangement・Mix&Mastering:Yopi(Twitter:https://twitter.com/Yopipi_pipi
REISAI(https://www.youtube.com/channel/UC7VHtt-FgSIYLjrkzra2Q5A

■Illustration:穂積

■Movie:XI(https://twitter.com/XI_error

■Song for『捜し物屋まやま』(木原音瀬著、集英社文庫)
http://bunko.shueisha.co.jp/mayama/

REISAIさんボーカロイドバージョンはこちらから。
https://www.youtube.com/watch?v=BJpZ9FnhCs8&feature=youtu.be

陽気な小説家の兄と冷血な弟が営む「捜し物屋」の秘密とは?
『捜し物屋まやま』(木原音瀬著、集英社文庫)
定価:726円(税込)
ISBN:978-4-08-744042-3
http://bunko.shueisha.co.jp/mayama/

2021年10月20日発売! 待望の第2弾
『捜し物屋まやま2』(木原音瀬著、集英社文庫)
定価:704円(税込)
ISBN:978-4-08-744309-7
http://bunko.shueisha.co.jp/mayama2/

集英社文庫
Twitter:https://twitter.com/shueishabunko
Instagram:https://www.instagram.com/shueishabunko/



ショートショート特別編
「ある秋の日」木原音瀬

 空は高く、そして抜けるように青い。街中とは思えないほど、開放感がある。父親所有のこの古ビルに住んで三~四年になるが、点検をする以外に屋上に出たことは殆(ほとん)どなかった。
 日陰に置いたリクライニングの簡易チェアに寝そべり、白雄(しお)は顔を傾けた。屋上のちょうど真ん中では、弁護士、元引きこもり、警察官、ホームレス女子、小学生……そして捜し物屋兼作家の兄・和樹(かずき)が、ワイワイと楽しそうに小さなドラム缶様の簡易竈(かまど)をかこんでいる。
「ずっと気になってるんだけど、こんなに煙が出てて、大丈夫かね」
 弁護士が竈を右から左からのぞき込む。
「ここは個人の敷地で、使用しているのは炭なので、これならバーベキューの範疇(はんちゅう)ですよ。もしもの時のための消火準備もしてありますし」
 竈を持ち込んだ警察官が律儀に応え、長いトングで炭をかき回した。
「焼き芋、楽しみだよね~」
 ホームレス女子が、小学生を背中からだっこして、スリスリと頬ずりする。その仕草に既視感があるなと思ったら、あれだ。猫に対する態度と同じだ。
「やだ、十代ってやっぱ肌つるつる。あんた、ゴシックな服も似合うよね。いいなあ、美形だし将来性ムゲンじゃん」
 小学生が「僕、芽衣子(めいこ)ちゃんの顔すき。かわいい」と呟(つぶや)き「えっ、そっちこそめちゃキュートじゃん。あんたのこと産みたいわ」とホームレス女子は更にぎゅうぎゅうと小学生を抱きしめている。
 こういう集まりは、料理のできる自分に具材や調理の準備なんかの雑事が回ってくるので面倒くさいが、今回は警察官が竈、芋、炭を持ち込んできた。自分は何もしなくてよくて楽だ。寝そべって、見ているだけでいい。
「ねー、芋まだー」
 和樹が、自分と同い年の二十六歳の兄が、小学生みたいにゆらゆらと体を揺らす。
「一個、試しに見てみますか?」
 元引きこもりが炭の中からアルミホイルに包んだ芋を取り出す。手袋した両手でアルミホイルをはぎ、芋をぽくりと二つに割った。
「あっ、美味(うま)そう」
 和樹が呟き、元引きこもりが「もう食べられそうですね」と微笑(ほほえ)む。
「じゃあ、年が下から順にってことで、どうぞ」
 元引きこもりが小学生に芋を差し出す。小学生の顔が嬉(うれ)しそうにふわあっとほころんだ。
「ハイハイハイ、次あたし」
 ホームレス女子が自己主張し、二つ目の芋が差し出される。焼き芋のまわりで、楽しそうな空気が弾ける。
 それを、外から眺める。別にどうでもいい。知り合いだけど、馴(な)れ合う気はない。あれこれ面倒くさい。だから、自分はここでいい。少し離れた場所に、いるだけでいい。
「おーい、白雄」
 振りかえった和樹が、自分を呼んでる。
「早く来いよ。でないと芋、なくなっちゃうぞ」
 別に、食べなくてもいいのに、和樹がタタッと駆け寄ってきて「面倒くさいモード発動してないで、来いよ」と腕を掴(つか)んでぐいぐい引っ張ってきた。仕方がないから、椅子から起き上がって竈の傍(そば)にいく。
「ほら、お前の分」
 焼きたての芋を差し出される。ぽくりと二つに割ると、白い湯気の下で、黄色い身がほこほこしていた。一口食(は)む。濃く、強い甘みがじわっと口の中に広がる。美味(おい)しい。もう一口、もう一口と次々口に運んでいる間に、芋はなくなっていた。
「ポリさんちの芋、マジ美味すぎ。もっかい焼こうよ」
 和樹が提案し、警察官が「そうですね。まだ芋も炭もありますし」と答え、ホームレス女子が「おっきいのから焼いて」とリクエストする。ふと、振りかえると、自分が座っていたリクライニングチェアが見えた。それはぽつんと、寂しそうに佇んでいる。
 そして今いる場所は、明るい。日差しもそうだが、空気が。楽しそうな中に、自分がいる。チェアから見ていた場所にいる。別にそれを望んでもないのに、不思議だ。
「第二弾はお前も手伝え~」
 兄に手渡されて、白雄は仕方なく芋にきっちりとアルミホイルを巻いていった。

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